シェイクスピアの『リア王』などを読了

令和5年4月5日から6日の期間に以下の二冊を読み終えた。kindle版をiPhoneのVoiceOverで聴く。

1.皆川博子著/薔薇忌(実業之日本社、2014年)

2.シェイクスピア著、大山俊一訳/リア王(グーテンベルク21、2012年)

〈感想、メモ〉

1.皆川博子著/薔薇忌(実業之日本社、2014年)

短編小説集。歌舞伎などの舞台芸術にまつわる7つの物語が収録される。本作は第3回柴田錬三郎賞の受賞作である。電子書籍版では、授賞式の直前に著者が顔に目立つ怪我をしてしまい、困ったというエピソードが「あとがき」で語られる。以下、この作品のブログ執筆者にとっての魅力的な部分二点。

(1)小説の中で古典的作品が紹介される点

本作中にはいくつかの古典文学が登場する。そこから読者はイメージを広げて楽しむことができる。未読作品であれば、その作品を読もうというモティベーションになるかもしれない。表題作の『薔薇忌』では、劇団員たちの会話の中にミュッセの『ロレンザッチョ』のことが出てくる。団員たちの会話ではあらすじが紹介され、ロレンザッチョのふるまいについての感想なども語られる。ほか、プロデューサーと元歌い手の訳者を描いた「化鳥」では、プロデューサーがこの物語の語り手なのだが、彼の思い出が語られるときに、山東京伝作品ついての話が出てくる。

(2)抑制された文体

どの作品においても、その文章には無駄がなく、抑制された文体だと感じる。表題作の登場人物たちは若者なので、その台詞はいかにも若者らしい言葉遣いなのだが、浮ついた印象を受けない。陰惨なストーリーが多いのだが、どぎつくなるということもない。淡々としている、というのとも少し違うような気がする。ブログ執筆者は文学の技術の語彙を持たないので、ない、ない、と消去法で、しかも結論も出ない、という文章になってしまったが。

この作品は柴田錬三郎の賞を獲得したというのがさもありなんという雰囲気の作品たちが収められている。泉鏡花の作品名が出てくる作品もあり、全体に幻想的な感じが漂う。

2.シェイクスピア著、大山俊一訳/リア王(グーテンベルク21、2012年)

老いたブリテン王、リアの悲劇。領地と政治権力の譲り渡しの場面からこの劇は始まる。この場面で、王の末娘コーディリアは率直、正直に話をする。その言葉を平らかな心で受け止めることができなかったリア王のその後の運命は悲惨なものであった。生々しく、また、暴力的な言葉は、ただ荒々しいだけでなく、時々はっとさせられるような表現がでてくる。

実際には年齢を重ねることで、人間は丸く穏やかな性格になるよりも、怒りっぽくなることの方が普通であるということを昔精神科医の和田秀樹のどの著作かで読んだ。王が怒気を発する場面を中心に味わうという読みかたでも十分に面白い作品だろうと思われる。

(敬称略)

コメント

タイトルとURLをコピーしました